ウソブックス:ヒソンザイクロペディア物語
これは、とあるヒソンザイクロペディアで起こった昔話。
昔々、ヒソンザイクロペディアには、とても頭のいい管理者と、とても悪賢いLTAがいました。
LTAは、表でまともな編集をしつつ、裏で悪事を働いていました。しかし、ヒソンザイクロペディアの利用者たちからは、高い信頼を得ていました。執筆者としては、秀逸な記事さえも何本も書いて見せる技量を持ち、議論においては誰よりも広い視野から意見を述べて皆を感心させ、最終的には、管理者に上り詰めると、物の数分で発生した荒らしを撃退できる敏腕を振るうに至りました。
そう、そのLTAの表の顔は、どこまでも模範的な利用者だったのです。
しかしながら、あまりに出来過ぎたその端正な顔立ちと礼儀正しすぎる振舞いは、とても頭のいい管理者をして、ある疑いを抱かしむるに至りました。
全てが、出来過ぎている。この管理者にまで上り詰めた利用者は、じつはLTAその人なのではないか?
頭のいい管理者は、魔法の水晶玉や全知全能の神ほどには使えないとはいえども、かなり優秀といえる道具を手元に置いていました。彼は、その道具を使って、日々、疑った利用者を対象として、その道具から情報を得ることとしました。しかし、LTAも悪賢いので、中々尻尾がつかめません。そこで、とても頭のいい管理者は、その情報をたどった先に連絡したり、集めたログをまとめなおして睨めっこしたりして、何とかして尻尾を掴もうと考えました。
アイツは確かに表向きは美しい。だが、俺の刑事の勘が、アイツこそホシだと示している。
頭のいい管理者は、その考えだけを支えに、遂に、誰もが納得するだけの、確固たる証拠をつかみました。荒らしが使用していたプロクシのIPの運用元と連絡を取り、開示してもらった接続元のIPと、その管理者の使用しているIPとを突き合せたところ、見事に一致したのです。
それが公共IPだなどという言い訳ができる余地もなく、遂に、LTAは、一度は管理者権限を失い、無期限ブロックされることとなりました。めでたしめでたし…いえ、ここからが、本当の戦いの始まりだったのです。
権限を失ったとは言えども、まだまだいくつものソックパペットを飼い慣らしていたLTAは、いくつもの方向性によって、ヒソンザイクロペディアを壊滅させることを考えるようになりました。
- とても頭のいい管理者を引きずりおろす。まずは直接的に報復だ。幸いにして、頭のいい管理者は、頭が良すぎて周りから理解されにくい。その点をうまく利用してやれば、彼のことは確実に引きずりおろせる。
- 模範的な利用者を演じつつ、敢えて一定の編集の癖を持たせよう。時の最先端の人工知能に形態素解析も駆使して、慎重に計算しつくされた癖を持たせつつ、それ以外の点においては模範的な役を演じよう。そうすれば、いちいち編集方法をウィキペディアや頭の固いウィキに探しに行くのが面倒な大半の新規利用者が見様見真似で記事を書く時に、その癖はしっかりと受け継がれる。後は、頭のいい管理者が頭良く判断してくれるのを待てばいい。
- 荒らしアカウントについては、できるだけ多くのレンジとユーザーエージェントから出没してやろう。そうすれば、確率的に他の利用者から、荒らしと一致するIP・UAを検出される可能性が高くなる。
悪賢い人間の巡らせる策は、ツッコミどころ満載ですね。頭のいい管理者を引きずりおろさない方が、彼の賢明な判断を悪用しやすかったはずなのに、悪知恵は働いても本質的にはおバカなLTAは、あろうことか報復という私情を優先させてしまいました。
しかしながら、悪知恵だけは働くので、効果は覿面。遂に、頭のいい管理者は、正しいのに周りから理解されないブロックを連発してしまい、LTAの扇動もあって彼の判断に納得しなかったコミュニティから、独断専横だとして、解任されてしまいました。
ここに来て、本来の目的であるヒソンザイクロペディアの壊滅が遠のいてしまったことに気付いた悪賢いLTAは、自分のミスに気付いたものの、それならそれでいいと開き直って、残されたコミュニティを、いくつもの「模範的」アカウントを使って、ほぼ完全に乗っ取りました。何と、今回は、複数の管理者アカウントをも取得するに至ったのです。とんでもない話ですね。
一度は失意のうちにヒソンザイクロペディアを去り、ホームウィキであるシャベクリウィキに専念することにしたとても頭のいい管理者は、さすがにこの惨状に、見るに見かねました。そして、遂に、シャベクリウィキの荒らしに対処しつつも、余力を生かして、ヒソンザイクロペディアに舞い戻ることを決意したのです。
結果として、「模範的」アカウント群は、シャベクリウィキとの方法共有によってあっさりとボロが出て壊滅し、管理者権限を持つに至った複数のアカウントも、とうとう虫の息の状態になりました。
しかしながら、実は、時に既に遅し。悪賢いLTAがウィキ全体にばらまいた編集の癖は、次々と利用者にまねされ、ヒソンザイクロペディアの母国の殆どのIPレンジとUAの組み合わせも、LTAによって試されてしまっていました。皮肉にも、LTAが一時的に私情を優先させたことが、頭のいい管理者が舞い戻ることを決意したというまさに偶然の結果によって、功を奏したのです。
とても頭のいい管理者は、自らの手元の道具、懐刀と、そこから読み取られた情報を信じて疑いません。よくできたもので、技術的同一性は、殆どのパターンで、そんなに高い確率では起こりませんから、確認された同一性をもとにLTAだと断定してブロックしていくことは、実は誠に正しいことなのです。
しかしながら、その結果、かつては一切なかった、LTAに仕組まれた誤認ブロックが多発するに至り、利用者は、一人、また一人、と消えていきました。
「不審なアカウント123個の調査。合計357回。」
とは、ある時期の公開報告に記された記録です。たった一人のLTAが、ものすごい数のアカウントを飼い慣らしていたものですね。
いいえ、たった一人のLTAが慎重に仕込んだ癖が、それだけコミュニティに蔓延してしまっており、頭のいい管理者がしっかり見抜いた癖によると、不正な多重アカウントになってしまったのです。
そして、遂に、残されたのは、頭のいい管理者と、彼が最も信頼を置いてきた管理者の、二人になりました。
どちらも懐刀を持っていたので、念のため、互いにその道具を通じて記録を覗くこととしました。
するとまあびっくり。頭のいい管理者は、自らが最も信頼していた管理者ですらも、LTAであることを発見したのです。幸いにもこの時には、ビューロクラット権限も取り戻していた頭のいい管理者は、ショックを受けながらも、迷うことなくそのLTAをクビにし、そして永久に黙らせました。
――少なくとも、ヒソンザイクロペディアでは、彼は相手を、確かに黙らせたのです。
ところが、この管理者は、ヒソンザイクロペディアの海外総本部、メチャヒソンザイクロペディアに移って、えん罪を大々的に訴えつつ、こう言ったのです。
「私が見たところでは、彼こそがLTAだった。」
頭のいい管理者は、これを笑い飛ばしました。なら、自分で自分のCU結果を取って公表して見せよう。そう決意した彼は、余裕綽々として、自らのCUを取り、……その結果を見て、紙のように真っ白になりました。
「技術的に、私は、LTAと区別することができないことが確認されました。よって、私自身を無期限ブロックとします。--頭のいい管理者 20xx年12月31日 (〇) 23:59 (JST)」
この投稿を最後に、頭のいい管理者は、自らがはめられたことを悟りつつも、これまでの経験とルール、そして自らが誇ってやまない公明正大さに基づいて、自らをブロックしました。
そして、誰もいなくなったとさ。おしまい。
後書き[編集 | hide | hide all]
後世の研究によると、このヒソンザイクロペディアのモデルは、エンサイクロペディアまたはユニサイクロペディアではないかと言われている。