ウソブックス:未知の敵との遭遇

出典: 究極の八百科事典『ウソペディア』

昼頃に家に帰ると、何者かの気配がしました。しかし家族が家に居る様子はありません。どうせ気のせいだろうと思って自分の部屋の扉を開けると、それはそれは世にも恐ろしいものを見ました。奴です。頭文字Gです。5cmくらいの巨体を持つ甴曱です。そいつが部屋の隅にいるのです。死ぬほど飛び上がりました。私は虫は大の苦手なのです。

急いで新聞紙を持ってきました。しかし私は考えます。今ココでこいつを叩き潰してしまっては悲惨なことになるんじゃないかと。そう思った私は殺虫スプレーを探しました。ですがいくら探してもありません。しょうがないので玄関に置いてあったファブリーズを持って部屋に戻ると、さっきまで部屋の隅にうずくまっていた奴がいないのです。はっと思って後ろを振り返ると、なんと壁によじ登っているではありませんか。私はもう幽霊でも見たかのように腰が抜けてしまい、ファブリーズを吹きつける余力すら失ってしまいました。ですがここで下がってしまってはいつまで経っても退治できません。遂に私は意を決してファブリーズを吹きつけます。するとどうでしょう。奴はその攻撃を浴びるやや、ものすごい速さで壁を歩み、棚の隙間に隠れていったのです。私は戦慄しました。このまま奴が棚の隙間に居続けていたら、私は夜も寝ることすらできないのではないか、と思いました。しかし動かない訳にはいきません。私は心臓が張り裂けそうなほど鼓動しながら、一歩一歩と棚に歩み寄りました。そして再び、棚の隙間に向かってファブリーズを吹きつけます。するとどうでしょう。奴は高速で棚の隙間から出てきたと思えば、その羽を羽ばたかせてこちらへ急襲してきたのです。咄嗟にしゃがんだので辛うじて接触は避けられましたが、緊張のあまり口から心臓が飛び出てしまったかと思いました。貧血になったかのように視界がぼやけ、恐怖のあまり足がすくみ、立つこともままなりませんでした。床に座りながら部屋の扉を背にするように退き、奴から目をそらさないようにしました。奴は私のデスクに止まって悠々とした様子です。私は腹を括りました。先程持ってきて、部屋の横に置いておいた新聞紙を丸め、ガムテープを貼り付けました。そしてフラフラしながら立ち上がると、先程よりもゆっくりと奴に近づきました。同時に徐に新聞紙を振りかぶり、奴との距離が数十センチほどになったところで勢いよく新聞紙を振り下ろしました。グシャ、という汚らしい音が響きます。恐る恐る新聞紙を持ち上げると、奴は完膚無きまでに潰れておりました。

これにて、奴とのゲリラ戦は終わりました。私は安堵のため息をつくと、高々と新聞紙を上げることで無言で勝利の宣言を行い、腕で汗を拭いました。服は冷や汗でびっしょりです。新聞紙で奴の遺体を包んでゴミ箱に捨て、遺体のあったデスクにファブリーズを何回も吹き付け、消毒液の染み込んだティッシュで何遍も拭きました。ようやく、私の心に平和が戻りました。しかしこの時、私はまだこの戦いが、悪夢の始まりだということを知る余地も無かったのです...